湿地を保全する理由
人のため

人間のことだけ考えても湿地は保全する価値があります。
 私たちは川や湖、地下水から水のめぐみを受けています。水がなければ1日たりとも生きていくことができません。世界では、安全な飲み水が確保できないことにより、悲惨な健康被害が起きている地方もあります。

 湿地は私たちを洪水の危険からも守ってくれます。ミズゴケの湿原は、大雨が降っても大量の水を含むことができます。ため池や水田、広い河川敷のある自然河川も、大雨の時に水をたくわえ、周囲の地域を洪水から守ってくれます。また旱魃の時には、これらの湿地から徐々に浸透する地下水が、渇水を防いでくれるでしょう。
 湿地は私たちの食生活にも深く結びついています。水田での作りや蓮田でのレンコン栽培、川や湖沼や浅い海での漁業など、私たちは日々湿地の恩恵をこうむっています。山奥の小さな渓流は、山の栄養分と砂を下流へ、海へと流す大事な役割を果たしています。河口や海底に堆積した砂や泥の中にはアサリやシジミなどの二枚貝がすみ、私たちの食卓にも上ります。こうした場所にはカニやゴカイなどもすんでいて、鳥や魚の食物となっています。砂や泥の海底には海草も茂り、魚たちの産卵の場や成育場、隠れ家になります。岩の多い浅い海には、海藻の藻場が茂ります。海藻は私たちの食べ物となるほか、アワビやサザエなどをはじめ多くの魚貝類をはぐくみます。
 湿地を介して陸と水、陸と海が互いに結びつくことによって、自然の恵みはさらに豊かになっていきます。湿地とその周囲の環境を守り、賢明な利用を図ることによってのみ、私たちはこれからも湿地のめぐみを受けることができるのです。

 湿地の多様な自然は、人の生活を育むだけでなく、人の心も育みます。子どものころ、水辺でトンボを取ったり、タガメやザリガニや小魚を取った
人は多いのではないでしょうか? 干潟で潮干狩りをしたり、砂浜で波とたわむれたり、磯遊びをしてヤドカリを捕まえたりしたこと、覚えていますか? 南の島々では、サンゴの間を泳ぐ色鮮やかな魚たちに目を見張り、マングローブのジャングルを探検する、そんな子ども時代を過ごした人もいることでしょう。涼しい水が足や身体の周りを流れ、泥や砂や石を足の裏に感じ、手の中にぴちぴち動く生き物を捕まえたときの、身体の底から湧きだしてくる、あの喜び。湿地を守ることによって、私たちの次の世代にも、また次の世代にも、こうした喜びを伝えることができるのです。

(写真:鈴木孝男)
(写真:鈴木孝男)
(写真:風呂田利夫)

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