河川生態系連続講演会「流域生態系を育む河川ネットワーク」第3回講演を聴講して(2)

渓畔林では、多数の樹種が共存しています。崎尾さんのフィールド、埼玉県秩父郡の中津川の渓畔林における、複数の樹種の共存機構についてお話いただきました。


渓畔林では、多数の樹種が共存しています。崎尾さんのフィールド、埼玉県秩父郡の中津川の渓畔林における、複数の樹種の共存機構についてお話いただきました。

この渓流の周囲では、たとえば尾根筋は乾燥していてミズナラやヒノキが、斜面にはブナやイヌブナが高木として生えているのですが、渓畔域の高木は樹種が多く、カツラ・シオジ・トチノキ・オオバアサガラ・サワグルミなどが見られます。特にカツラ・シオジ・サワグルミは、林冠木の90%を占める優占種です。なぜ多くの樹種が渓畔林に共存できるかというと、それぞれの樹種の生活史特性や生理生態的特性(いわば樹種の持つ「個性」)と攪乱との間の関係に、共存への鍵が隠されていたのでした。

樹木の生活史を考えると、開花結実→種子散布→発芽→実生バンク→稚樹バンク→林冠木→開花結実、という大きなサイクルがあります。この内、種が落ちて発芽し稚樹になるまでの間は、洪水などの攪乱によって流失することもあり、また逆に砂礫の堆積によって発芽・生育場所ができたりします。林冠木になっても、洪水などで倒木となることもあり、するとその場所にギャップができて実生が生育できるようになります。このように、生活史の各段階に攪乱が影響を及ぼすのが、渓畔林の特徴の1つです。


倒木により生じたギャップの実生

(写真提供:多留聖典)


では例えば、サワグルミの生活史や生理生態的特性は、攪乱とどのように関係するのでしょうか。

サワグルミは成長が早く、寿命はあまり長くなくて100年程度です。中津川の渓畔林の中でサワグルミがどこに分布するか調べると、一様には分布しておらず、集中して沢山のサワグルミが生えていました。そのパッチの中では、サワグルミの樹齢がほぼ揃っていることも判明しました。こうした事から考えられるサワグルミの更新のストーリーは以下の通りです。すでにサワグルミの生えている近くで、山腹崩壊や土石流など、土砂が堆積するような大規模な攪乱が起きます。母樹から近く、種子の分布範囲内であれば、サワグルミは新しくできた何もない土地にいち早く入り込みます。そして強い光を生かして早く成長するため、同時に入り込んだ他の高木との光を巡る競争に勝って林冠木となります。しかし成長したサワグルミの下は光が不足するため、その場でサワグルミの種子から若い個体が育つことはできません。同じ所に生えるサワグルミは、いわば肩を並べて育った同級生なので、樹齢が揃っているというわけです。

シオジは、また別の特徴を持っています。特筆すべきは、実生の頃の耐水性です。シオジの実生を植木鉢に入れ、常に土の表面に水がかぶるようにしてしばらく置くと、普通に育てたものと比べて、葉の数や成長、生残率にほとんど変化がありませんでした。しかし同様の実験でサワグルミやカツラの生残率は約70%まで減少しました。つまりシオジの実生は、頻繁に起こる林内掃流にも耐えて生き残ることができるのです。

中津川でのシオジの分布を見ると、渓畔林の上流域から下流域までまんべんなく分布していることが分かります。シオジは小さな種子を数 年に一度沢山生産し、渓流の流れに乗せて広い範囲に分散させるため、大規模攪乱で出来た空き地にも、倒木によってできた小さなギャップにも進出できるの です。そして実生が強い耐水性を持つため冠水に遭っても生き残り、中津川渓畔林で最も優占する高木になったと考えられます。



カツラ

(写真提供:多留聖典)

カツラもまた、他の2種とは異なる特徴を持っています。中津川渓畔林の中での分布を見ると、群生せずに単独で点在していることが分かります。個体間の距離は最短でも数10mと長いのですが、雌雄異株で風媒花です。それでも種子を作れるのは、他の木がまだ葉を茂らせず障害物のない早春に花を咲かせ、花粉を飛ばすためです。カツラの種子も風で飛びます。非常に小さい種子を毎年大量に生産し、他の木々が葉を落として障害物がなくなった後、広く散布するのです。寿命は長く、300年生きる個体も稀ではありません。萌芽(ぼうが。幹の周囲の地面から出る枝)を沢山出すのも特徴で、1本の幹の周辺に60本もの萌芽を出している個体もいるそうです。寿命が長く萌芽も出すことから、カツラは1つの個体が非常に大きくなります。

沢山種子を散布するのに個体数は多くなく、林内に点在しているのには訳があります。カツラが生えるのは、大きな礫の間や岩の間に細かい土があって安定している所に限り、また光も必要です。こういう場所は稀であり、大規模攪乱の時にたまたまできるくらいです。それまでの間カツラは、萌芽により長期間個体を維持し、毎年大量の小さな種をできるだけ広く散布し、次世代が生育できる場所が空くのを待っているのです。

 このように、多様な攪乱と、樹種による生活史や生理生態的反応の差異によって、渓畔林では多くの樹種が共存しているのです。

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