河川生態系連続講演会「流域生態系を育む河川ネットワーク」第4回講演を聴講して(1)

写真・資料提供:岩田明久

(撮影:紀平大二郎)

 2006年1月10日(火)、17時より、河川生態系連続講演会第4回目、「身近な魚達の保全〜水辺のネットワークから心のネットワークへ〜」が、東京海洋大学楽水会館大ホールで開催されました。講師は京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の岩田明久さんです。岩田さんは東南アジアと日本の両方で川魚の生態の研究をしていらっしゃいます。今回は、第1部でラオスの河川と淡水魚、および人と淡水魚の関係について、第2部で西日本の稀少な淡水魚(特にアユモドキ)について、第3部では河川と魚をめぐる人の心のネットワークのお話をしていただきました。


まずラオスのお話です。ラオスはインドシナ半島の中部に位置する内陸国で、国土の90%はメコン川水系に属します。ラオスの人々はこのメコン川水系の淡水域で採れる水産物に大きく依存しており、タンパク質摂取量の実に6割から7割が淡水産の水産物なのだそうです。



ナマズの1種。これでも小さい方

市場での写真を岩田さんは次々と見せて下さいましたが、本当にさまざまな淡水生物を売っています。35 kg もある大きなナマズ、アユモドキ近縁種など色々な魚、タニシ、水辺に生える食べられる植物など、身近なものを採ってきて売っているのだそうです。こういう光景は日本ではもう見ることができません。


ラオスの川には、雨期に大量の雨が降って大増水し、乾期には水が引くという大きなリズムがあります。雨期の増水は6〜7m にも達しますが、これは毎年起きる普通の現象です。川が増水すると、川の周辺の三日月湖と川が繋がり、普段本流にすんでいる魚が三日月湖に卵を産みに行きます。川の近くに住む人々は、いつ魚が三日月湖に遡上するかよく知っていて、川と湖が繋がる小川に網を仕掛け、魚を捕るのです。網だけでなく、色々なタイプの罠も使われています。餌を入れないタイプもあれば、糠やシロアリ、トビケラなどを餌として入れるタイプもあり、タウナギ用、エビ用、カエル用(カエルも大事なタンパク源です)などに特化した罠もあります。投網や棒つきの網・四手網も使われますし、釣りもします。雨が降って川が大増水すると、日本では川には近寄らないのですが、ラオスでは川に出て、ものすごい激流に投網を打ったりして、競うように魚を捕るのだそうです。田圃の水路や、雨期に水没する田圃の間の道などでは、子どもたちも魚捕りにはげみ、捕れた魚がその日の食卓に並ぶのです。


激流に投網を打つ

ラオスの田圃は、雨期になると川とつながります。すると、トゲウナギの仲間やグラミーの仲間など、多くの魚が川から田圃に入り込んで生活するようになります。小型魚を食べる大きなヒレナマズやライギョの仲間も田圃に入り込んで暮らし、ここで産卵もします。ラオスの田圃はお米を作る場であるだけでなく、魚も暮らし、水草も生え、人はそうした魚や水草も採って食べているのです。

田圃で強い魚食性の魚を支える大量の小魚は、ラオスの人々にとってなくてはならない発酵調味料、パーデクの原料でもあります。

ここで岩田さんは、パーデクの作り方も教えて下さいました。小魚と米糠と塩を、1:1:1の比率でよく混ぜ、3ヶ月置けば出来上がり。内陸国で塩をどうやって入手するかというと、塩を多く含んだ赤い粘土層があり、乾期にそこから霜柱のように塩が吹き出すのを、煮詰めて食塩とするのだそうです。すべての材料は身近な所から入手しているのですね。


こうした魚たちと人々の生活を支えるラオスの淡水域は、田圃と水路→小川→メコン川支流→メコン川本流と繋がっていて、雨期には水面の高さにギャップがなく、魚は自由自在に行き来できます(エコロジカルネットワーク)。こうした場所にすむ身近な魚たちを、ラオスでは大人も子どもも一緒になって捕り、世代から世代へ漁労文化を伝達しています。日々の糧を得る場である川や田圃について、人々はいつも関心を持っています。

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